IEC 60950-1, UL 60950-1 (CAN/CSA-C22.2 NO.60950-1-03) の電線規制

UL 60950-1 Information Technology Equipment - Safety - Part 1: General RequirementsIEC 60950-1にアメリカ・カナダ向けの条項 (National Difference)を追加したもので、 従来の UL 独自規格を IEC に合わせて修正する動きから生まれました。 以前は、テレビとかオーディオとか、機器の性格がはっきりしていましたが、 最近のコンピュータ技術の進歩で、すべての機器が情報機器に統合されつつあり、 安全規格としては、最も重要なものですから、よく理解しておかなければなりません。

ただ、読まなければならない規格の分量も半端でなく、 簡単とは言えませんので、電線の営業、製造、 検査レベルで最低限理解しておかなければならないことをまとめておくことにしました。 この種の情報はなかなか入手できませんので、営業的武器にもなると思います。

まず、この種の安全規格が考慮しているHazards(危険性)は、次ぎの7つです。

以下、電線に関連する部分の要約です。

1. 部品全体に適用される原則 (1.5)

IEC 60950-1 機器で使われる部品は原則として、 関連する IEC の部品規格に従うのですが、 UL/CSA の場合は、一部の部品について、UL 独自の規格を使うことになっていて、 電線の場合は継ぎのようになります。(Annex P.2)

絶縁チューブUL 224 Extruded Insulating Tubing
電線・ケーブルUL 44 Thermoset-Insulated Wires and Cables
UL 83 Thermoplastic-Insulated wires and Cables
UL 758 Appliance Wiring Material
UL の場合は、ありとあらゆるものに規格を作って、売上を増やそうという姿勢ですが、 IEC の場合は、電源コード等、危険があるものに限定しています。

1.1. (外部)接続ケーブルに適用される規定 (1.5.5)

IEC 60950-1 では、この規格が規定する危険がなければ良いという表現ですが、 UL/CSA 60950-1 では、さらに下記事項を追加しています。

  1. 原則として、「external」(外部配線用)として容認できる構造で、 用途に応じた電圧、電流、温度、機械強度定格を有するもの。
  2. 3.05 m 未満なら、用途に応じた電圧、電流、温度、機械強度定格を有する VW-1(FT-1) 定格のジャケット付き AWM (appliance Wiring Material) でもよい。
  3. さらに、3.05 m 未満で、limited power source(小電力回路)なら、 VW-1(FT-1) 以上の難燃性さえあれば、何でもよい。

また、UL 独自の Annex NAE で、さらに要求事項を追加していて、

としていますので、事実上、 に限定されてしまいます。 電線の AWM (UL7568) から VW-1 だけを試験するスタイルがなくなってしまいましたので、 最後のケースは最終製品の検査で行なうしかなくなりました。 (詳細は未調査)

接続ケーブルで機器に引き込まれた部分は、接続ケーブルと解釈しても、 内部配線として解釈しても良いことになっています。 また、機器都は別に市販される接続ケーブルも、 機器に固定された接続ケーブルと同じ扱いをすることができます。

limited power source(小電力回路)の定義は下記のとおりです。(2.5)

過電流保護部品はヒューズか、可変機能を持たず、自動リセットしない、 電磁デバイスに限ります。

交流電源や電池に接続される limited power source には絶縁トランスが必要です。

表 2B 過電流保護の要らない回路
出力電圧 1)出力電流 2)
A
皮相電力 3)
VA
V a.c.V d.c.
<=20<=20<=8.0 A<=5*Uoc
20 < Uoc20 < Uoc <= 30<=8.0 A<=100
-20 < Uoc <= 60<=150/Uoc<=100
1) Uoc: 出力電圧は無負荷で測定。10 % 以上のリップルがある場合は、 42.4 V を超えないこと。
2) Isc: 短絡を含む無誘導性最大負荷に接続して、60 秒経過後の値。
3) S(VA): 短絡を含む無誘導性最大負荷に接続して、60 秒経過後の値。

表 2C 過電流保護が必要な回路
出力電圧 1)出力電流 2)
A
皮相電力 3)
VA
過電流保護デバイスの電流定格 4)
A
V a.c.V d.c.
<=20<=20 <= 1000/Uoc<= 250<= 5.0
20 < Uoc <= 3020 < Uoc <= 30 <= 100/Uoc
-30 < Uoc <= 60<= 100/Uoc
1) Uoc: 出力電圧は無負荷で測定。10 % 以上のリップルがある場合は、 42.4 V を超えないこと。
2) Isc: 短絡を含む無誘導性最大負荷に接続して、60 秒経過後の値。 電流制限インピーダンスは活かし、過電流保護デバイスはバイパスしておく。
3) S(VA): 短絡を含む無誘導性最大負荷に接続して、60 秒経過後の値。 電流制限インピーダンスは活かし、過電流保護デバイスはバイパスしておく。
4) ヒューズ、ブレーカがこの表の値の 210 % の電流で、 120 秒以内に切れること。

2. 配線、コネクタ、電源 (3)

内部配線と接続ケーブルの原則は、

ですが、UL の場合は、さらに、この条件を満たすと考えられる事例として、 下記をあげています。

この他、下記の規定があります。

3. 難燃性 (4.7 Resistance to fire)

機器の内部と外部の両方で、出火と延焼の危険をなくすのが目的ですが、 原則的な対策は、下記 1 (多量の部品を使う機器)、 2 (部品数が少ない機器)のいずれかになります。

  1. 不燃あるいは難縁材料で作ったFIRE ENCLOSURE(防火容器)に入れる。
  2. 下記のすべての危険性(5.3.6)をテストする(モータ、トランス、電磁部品以外)。(防火容器不要)
    1. 1次回路のすべての部品を短絡、開放する。
    2. 補助絶縁、強化絶縁に影響しそうなすべての部品を短絡、開放する。
    3. 防火容器の外にあるすべての部品を短絡、開放、過負荷試験(通常負荷と短絡の途中の状態)する。
    4. 電源以外のすべての配電、信号出力端子とコネクタに、 もっとも苛酷な負荷インピーダンスを接続する。(以下 UL のみで)
    5. オペレータがさわれる場所にある、内部のSELV CIRCUITコネクタ、 プリント基板のボード・コネクタに 出力電流が最大になるような抵抗負荷を接続したときの電流が、 過電流保護デバイスの定格の 110 % と、最大出力電流を超えない。

    ただし、下記の場合は上記 a), b) の検査のみ必要。
    125 V 以下の1次回路に 10 kΩ以上の直列抵抗で接続された回路は検査不要。
    125 V を超え 250 V 以下の回路で、20 kΩ以上の直列抵抗で接続された回路は検査不要。
    試験中に部品による開路があった場合は、部品を交換して、 あと2回の試験を行なう。
    電源コード、カプラ、EMC フィルタ、スイッチ、接続ケーブル等、 主電源に付随する部品で、必要な絶縁距離と縁面距離が確保されていれあば、 検査しない。
    トランスについては、 検査中の温度上昇が C.1 の規定(省略)を超えないことを確認する。

すべての危険性(5.3.6)をテスト方法で安全性を確認するか、 後記の例外(防火容器に入れなくてよい場合)を除いて、 下記の部品は防火容器に入れます。(4.7.2.1)

ただし、下記については、難燃性の防火容器に入れる必要がありません。(4.7.2.2)

PVC 以外の AWM に含まれない電線については、すべての危険を検査する方法で対処するのが、 有力な方法と思われます。

3.1. 防火容器内部の部品材料 (4.7.3.4)

4 kVpp を超える高電圧回路以外については、下記のいずれかが必要です。

ただし、下記の場合は例外で、この必要がありません。 PVC 絶縁が有力な対策です。

3.2. 防火容器外部の部品材料 (4.7.3.3)

原則として、防火容器の外におかれる部品では、 厚さ 3 mm 以上なら HB40、3 mm 未満なら HB75 の難燃定格の材料が必要です。 (エア・フィルタは 4.7.3.5、高電圧部品は 4.7.3.6)

コネクタは下記のいずれかでなければなりません。

下記の場合は、部品材料に対する HB40, HB75, HBF 難燃要求はありません。

x. 注

x.1. 材料の難燃定格

板状の試料を垂直に保持して、下部にガス炎をあてる、 UL 94 の試験方法で評価しますが、その概要は次のとおりです。

x.1 1次回路と2次回路

交流(商用)電源に直接接続される回路がPRIMAY CIUCUIT(1次回路)で、 交流電源に接続する部品、トランスの1次巻線、モータなどを含みます。 1次回路や電池から、トランス、コンバータ等の絶縁デバイスから電力供給を受け、 直接電源に接続されない回路がSECONDARY CIRCUITになります。

x.2 SELV回路 (2.2)

SELB回路は、正常時、異常時のいずれでも、 オペレータ(人間)が接触しても危険のない回路で、 基本滴には、2導体間の電圧が 42.4 Vpeak か 60 Vdc の2次回路になりますが、 単一故障時には、 0.2 秒間だけ 71 Vpeak か 120 Vdc までは上昇してもよいことになっています。 SELV の由来は不明ですが、SEcondary Low Voltage かなと思います。

オペレータが触ると危険な場所 (HAZRADOUS VOLTAGE)からはBASIC INSULATION(基礎絶縁)で分離します。

x.3 Information Technology Equipment(情報機器)の定義

定格電圧 600 V 以下で、商用電源ないし、 電池で作動する情報機器で、事務機(business equipment)を含む。

具体的な事例として、ATM、 パソコン、データ処理装置、データ蓄積装置、プリンタ、スキャナ、ディスプレイ、 ルータ、データ端末、電卓、複写機、シュレッダ、電動棚、鉛筆削り、 広報機器、マルチメディア機器、 郵便処理機、ネットワーク端末、無線基地、リピータ、 FAX、MODEM、ページャ(pagers)、電話機(有線・無線)など、 いろいろな機器が例示されています。

z. 要調査事項

kh@mogami-wire.co.jp, 2006-06-02