4芯(quad)マイクロホンコードの使いかた

モノラル・マイクロホンの出力は、平衡か不平衡の2端子ですから、 その接続に使う電線は2芯シールド線で良いわけですが、 4芯シールド線を選択する場合があって、以下、その理由と、 選択の指針をご説明します。

1. ノイズ源の種類と一般的な対策

一般的なノイズ源としては、

  1. 電圧源 - 相互キャパシタンスによる誘導
  2. 電流源 - 相互インダクタンスによる誘導
の2つがあって、前者は伝送路を導体で覆って、それを接地する、いわゆる 静電シールド(electro-static shield)によって 簡単かつ効率的に対処することができ、 マイクロホンコードのシールド導体も、この目的で使われます。

一方、後者の場合は、電流源から生まれる磁束によって、 変圧器(transformer)と同じ原理で伝送路に起電力が生まれるわけですが、 ケーブルのシールドに使われる素材は銅やアルミといった、 ほぼ透磁率 1 (空気と同じ)といったものですから、 磁気シールドはまったく期待できません。 ただし、高周波でシールド導体に大きな渦電流が流れると、 渦電流によって生ずる磁束が元の磁束を打ち消すため、 磁気シールドと同じ結果が得られます。 しかし、マイクロホンケーブルでは、周波数が低いため、 この機構が使えません。

マイクロホンケーブルで磁気シールドを実現するには、 透磁率の大きな磁性材料を使えばよいのですが、 そういった材料は硬くて曲げられないため、電線に使うの無理で、 実用的な材料が存在しないのです。

そのため、低周波用の電線で相互インダクタンスによる結合を避けるには、もっぱら キャンセリング(cancelling)という手法が使われます。


1図 ツイステッドペアによる誘導起電力のキャンセリング

この原理は極めて簡単で、往復2本の導体を撚合わせると、 電磁誘導によって発生する起電力が、ピッチ毎に反転するため、 順次打ち消しあって、 ケーブル全体としては極めてわずかな起電力しか残らないというものです。

この機構がうまくゆかなくなるのは、 打ち消しの幾何学的単位を決める、 撚ピッチのスケールで見たとき、誘導源の磁束が一様でないときで、 その改善策としては、

して、メッシュを細かくするしかありませんが、 撚ピッチを小さくするとコストは急上昇しますし、 物理的な限界もあります。

2. 4芯(カッド)構造による誘導起電力のキャンセリング

誘導起電力のキャンセリングには、いくつかの手法があって、 カッド(quad)構造を使うと、 打ち消しの幾何学的単位をさらに小さくすることができます。


2図 カッド構造による誘導起電力の打ち消し

その具体的な構造は2図のようなもので、 同心円上に対称に配置された4つの導体のうち対角線に配置されたものを並列接続して、 1回路で使用するのですが、 これは電話回線で古くから利用されていた 重信回線と同じものです。


3図 重芯回線の電磁誘導打ち消し機構

3図は2図の断面ですが、この断面を横切る任意の方向の磁束は、 ベクトル的に隣接する導体間を結ぶ x と y 軸方向の成分に分解できます。

今、x 方向の磁束を考えると、 導体 1 と 2 のループに発生する誘導起電力と 導体 3 と 4 のループに発生する誘導起電力の方向が逆になって、 それぞれ打ち消し合います。

このキャンセリングは y 方向についても同じですから、 絶縁体厚の2倍程度という小さな幾何学的スケールでキャンセリングが行われる ことになって、 誘導磁界の不均一性に対して極めて有利になります。

ツイステッドペアの撚ピッチは、 かなり細かく撚っても、 絶縁体径の 20 倍ですから、 キャンセリングのメッシュの細かさは、 ざっと 20 倍を越すことになって、 26 dB を越える改善が期待できるできることになります。

照明装置等の電力線の近くで、 2芯と上記の使い方による4芯のマイクロホンケーブルを比較すると、 電磁誘導雑音の違いが上記の値になることを確認することができます。

3. 4芯マイクロホンケーブルの選択基準

ここまでくれば、いつ4芯マイクロホンケーブルを使うべきかはあきらかで、 サイリスタを使った調光装置やその配線等、 オーディオ帯域のスペクトルを含む、 大きな電流の流れる配線の近くに設置しなければならなくて、 ノイズ源との相互インダクタンスによるおおきな電磁誘導が避けられなくて、 20 dB 程度の改善ができれば良いとき というのがその選択ルールになります。

電磁誘導による起電力は

  e = j*ω*M*I

  ここに
	e = 電磁誘導による起電力 (V)
	j = sqrt(-1)
	ω = 角周波数
	   = 2*πf
	f = 周波数 (Hz)
	M = 相互インダクタンス (H)
	I = 誘導源の電流 (A)
ですから、 誘導起電力はノイズ源の電流と周波数に比例し、 大電流、高音のノイズほど不利になります。 また、相互インダクタンスはおおざっぱに見て、対間距離の自乗に反比例しますから、 ノイズ源から離すのがノイズ対策の基本で、 逃げの一手 は常に最良の戦略になります。

もし、ノイズが静電結合によるものか電磁結合によるものかの判定に迷う場合は、 アンプ側はそのままにして、マイクロホン側を短絡(short circuit)してみます。 それでもノイズが減らないとか増える場合は電磁結合、 マイク側を短絡したらノイズが消える場合は静電結合です。 ただし、シールドが浮いていたりすると、 マイクロホン側を短絡してもノイズが減らないことがあり、 これは2つの導体がアンプが完全に平衡でないとか、 ケーブルの幾何学的非対称性によるインピーダンスの不平衡分によるもので、 ケーブルやマイクを床に近付けたり離したりすると、 ノイズが大きく変化するといった現象から判定できます。

電磁誘導によるノイズが問題にならない環境では、 2芯マイクロホンケーブルがキャパシタンスとコストの両面で有利になります。