キャパシタンスは電線の特性としては最も重要なものの1つで、伝送特性とクロス トーク(漏話)に大きな影響を与えますが、全ての導体間にキャパシタンス (Mutual Capacitance) が存在しますので、導体数を n とすると、測定ないし計算しなけれ ばならないキャパシタンスの数は、n 個から 2 個を取るときの組み合わせの数に なって、
(n/2)*(n-1)個ですから、導体数の増加とともに急速に増え、組織的な測定を行なわないと収拾 がつかなくなります。
以下、最も無駄のない測定手順を考えますが、導体 i の電荷と電位をそれぞれ Qi, Vi、導体 i と 導体 j の相互キャパシタンスを Cij とすると、キャパシタン スの定義は行列とベクタ表現で次式のようになります。
[ Q1 ] [ C11 -C12 ... -C1n ][ V1 ] [ Q2 ] [ -C21 -C22 ... -C2n ][ V2 ] [ . ] [ . . . . ][ . ] [ . ] [ . . . . ][ . ] [ . ] [ . . . . ][ . ] [ Qn ] [ Cn1 -Cn2 ... -Cnn ][ Vn ]これを見ると、まず、Vi 以外の全ての Vj を 0 にすれば、
Cii = Qi/Viになりますから、導体 i と他の全ての導体との間のキャパシタンスを測定すれば、 Cii が得られることがわかります。すなわち、
Cii = 導体 i と残りの全ての導体との間のキャパシタンスの測定値 (1) 他の全ての導体はまとめて、キャパシタンスメータの低電位側に接続
また、導体 i と導体 j 以外の全ての Vk を 0 にして、導体 i と導体 j を並列 接続すれば、
Qi = Cii*V - Cij*V Qj = Cjj*V - Cji*V Cij = Cjiですから、
Qi + Qj = Cii + Cjj - 2*Cij*V
になって、
Cij = (Ci + Cj - Ci+j) (2) ここに、 Cij = 導体 i, j と他の全ての導体の間のキャパシタンス 他の全ての導体はまとめて、キャパシタンスメータの低電位側に接続。 導体 i と 導体 j はまとめてキャパシタンスメータの高低電位側に接続。から、導体間の相互キャパシタンスを計算することができます。
以上の手続きを図解すると、次のようになります。
+---------+ Cii o----------o-|>
| C meter |---->o----------o
+---------+ o----------o-|>
o----------o-|>
o----------o-|>
o----------o-|>
+---------+ Cjj o----------o-|>
| C meter |---->o----------o
+---------+
o----------o-|>
+--o----------o
+---------+ | o----------o-|>
| C meter |--+->o----------o
+---------+ Ci+j
Cij = (Cii + Cjj - Ci+j)/2
この手順で測定する場合、測定回数は
n + (n/2)*(n-1)です。
なお、キャパシタンスを決定する要因は、導体と絶縁体の幾何学的寸法と位置、絶 縁体の誘電率ですが、多くの絶縁体の誘電率は温度や周波数によって変化しますの で、周波数特性と温度特性に注意が必要です。ポリエチレンや4弗化エチレンは周 波数特性がほとんどありません。
また、ケーブルのキャパシタンスはかなり小さな値ですから、測定機に接続するた めのリード線や測定機の残留キャパシタンスを除去するための対策が不可欠で、4 端子法やインダクタンスの測定で説明する長さの違う2つのケーブルの測定値の差 を利用するといった手法が不可欠です。
電線の自己インダクタンス (Self Inductance) は伝送特性に影響を与え、相互イン ダクタンス (Mutual Inductance) はクロストーク(漏話)に大きな影響を与えます。
インダクタンスはキャパシタンスと違って、対象とする回路以外の導体が大きな影 響を与えることがありませんので、測定量は少なくて済むのですが、基本的に測定 限界に近い小さな値ですから、測定誤差の排除に充分な優位が必要で、うっかりす るととんでもない数値を提出して赤恥をかきますので注意してください。
まず、インダクタンスは回路に対して決まる値で、回路が閉じていない限り意味が ないことに注意が必要です。つまり電線の場合は2本の導体を1組にして往復で使 わない限りインダクタンスは意味を持ちません。電流がどの導体をどう流れるのか を把握してから測定を行なう必要があります。戻りの電流が共通 GND 等、複数の 導体を流れる場合は、使用時と同じ条件になるように、共通 GND の導体をケーブル の両端でショートしておかなければなりません。
自己インダクタンスは1つの回路のインダクタンスですから、2本の導体の終端を ショートして、始端をインピーダンス・メータの測定端子に接続するだけですみま す。注意点は、終端や測定機に接続する部分のリード線のインダクタンスがケーブ ル内部のインダクタンスより大きかったり、無視できないのが普通で、この影響を いかになくすかという問題です。
比較的無難な方法は、長さの異なる2つの測定値の差を使うもので、下記の手順に なります。
L = (L1 - L2)/s (H/m) ここに、 L1 = サンプル長 s + alpha (m) のインダクタンス (H) L2 = s (m) 切り詰めたサンプルのインダクタンス (H) 終端のショートと測定機への接続はまったく同じ形状にする。誤差要因になる両端の接続部分のインダクタンスが減算によって消去されることに 注意してください。
相互インダクタンスは2つの回路の間のインダクタンスですが、インピーダンス測 定機は測定端子は2つしかなくて、自己インダクタンスしか測れませんので、相互 キャパシタンスと同じように異なる回路構成からなる2つの測定値から計算するこ とになります。
私が考えた方法の1つは次のとおりです。
+-- L1 -- R1 --+
--+ ) M +-- == -- Lp -- Rp --
+-- L2 -- R2 --+
L1-R1 と L2-R2 を並列接続したときの合成インピーダンス(Lp-Rp) の関係(注1)
Lp = (L1*R2^2+L2*R1^2+-2*R1*R2*sqrt(L1*L2)*k
+ω^2*L1*L2*(1-k^2)*(L1+L2-+2*sqrt(L1*L2)*k)
/((R1+R2)^2+ω^2*(L1+L2-+2*sqrt(L1*L2)*k)^2) (3)
Rp = ((R1+R2)*R1*R2+ω^2*(L1*L2*(R1+R2)*k^2-+2*(L1*R2+L2*R1)*sqrt(L1*L2)*k
+L1^2*R2+L2^2*R1))
/((R1+R2)^2+ω^2*(L1+L2-+2*sqrt(L1*L2)*k)^2)
ここに、
k = M/sqrt(L1*L2)
M = 回路 1 と回路 2 の相互インダクタンス (H/m)
L1 = 回路 1 の自己インダクタンス (H/m)
L2 = 回路 2 の自己インダクタンス (H/m)
Lp = 回路 1 と回路 2 を並列接続した回路の自己インダクタンス (H/m)
+-, -+ の符号は相互インダクタンスによる磁束と自己インタクタンスに
よる磁束が同符号のとき最初の符号、逆方向のとき後の符号
を利用して、L1, R1, L2, R2, Lp の測定値と (3) から、k を求める。
k による Lp と Rp の変化は Lp のほうが大きいですから、Rp でなく Lp を使うの
が有利です。(3) 式から k を求める計算は 3 次方程式ですが、下記の関係を利用し
て数値解法で解くのが簡単です。
K 0.0 k 1.0 ------------------ Rpこの方が簡単ですが、3芯を2回路で使うといったケースに対応できません。R/2 Lp >L/2 L/2 平衡ケーブルでは、R1≒R+-ΔR, R2≒R-+ΔR, L1≒L+-ΔR, L2≒L-+ΔL で置き換え ると、R1+R2=2*R, R1*R2=R^2-ΔR^2≒R^2, L1+L2=2*L, L1*L2=L^2-ΔL^2≒L^2 で 近似できますから、
Rp = R/2 Lp = L*(1+-k)が 2 次の精度で成立ち、下記のように計算しても実用上充分な精度が得られます。M = (1 - 4*Lp/(L1+L2))*sqrt(L1*L2) (4)上記の手順を図解すると、次のようになります。+-------+ | |--->o---------------o+ |L meter| L1 1 | | |--->o---------------o+ +-------+ o---------------o 2 o---------------o o---------------o 1 o---------------o +-------+ | |--->o---------------o+ |L meter| L2 2 | | |--->o---------------o+ +-------+ +-------+ +-o---------------o+ | |->+ 1 | |L meter|Lp|+o---------------o+ | |-->+ <-- 図がわかりにくいのですが並列接続です +-------+ +-o---------------o+ | 2 | +o---------------o+ M = (1 - 4*Lp/(L1+L2))*sqrt(L1*L2)この他、2つの回路を直列接続したときの自己インダクタンスを使う方法もあって、 次のようになります。M = Ls - L1 - L2 (5) ここに、 M = 回路 1 と回路 2 の相互インダクタンス (H/m) L1 = 回路 1 の自己インダクタンス (H/m) L2 = 回路 2 の自己インダクタンス (H/m) Ls = 回路 1 と回路 2 を直列接続した回路の自己インダクタンス (H/m) M は2つの回路の幾何学的位置関係により + になる場合と - になる場合がある ことに注意。
なお、インダクタンスを決める要因は磁性材料を使わない限り導体の幾何学的寸法 と位置関係だけですが、表皮効果に起因する周波数特性があります。
ケーブルは L, C, R, G の分布定数線路ですから、周波数が高くなってケーブルの 長さがケーブルを伝わる電磁波の波長に比べて無視できなくなると、終端開放でも 終端短絡でも、その入力インピーダンスは L と C が分離できなくなって、L, C の測定値は眞の L, C と一致しなくなります。
最初にキャパシタンスの測定を考えます。終端開放ケーブルの入力アドミタンスは
Yin = tanh(α*l+j*β*l)/Z0
= (1/Z0)*(sinh(α*l)*cosh(α*l)+j*sin(β*l)*cos(β*l))
/((sinh(α*l))^2+(cos(β*l))^2) (6)
ここに
α = ケーブルの減衰定数 (neper/m)
β = ケーブルの位相定数 (rad/m)
Z0 = ケーブルの特性インピーダンス (Ohm)
l = ケーブルの長さ (m)
ですから、1 m 程度の試料を数 MHz までの周波数で測定するといった、α*l<<1 が
成り立つ条件なら、
Yin ≒ α*l/(cos(β*l))^2 + j*tan(β*l) (7)が成り立ち、並列等価回路で測定したキャパシタンスは
Yin = Rp + j*ω*Cpですから、この程度の高周波から上で成り立つ
β ≒ ω*sqrt(L*C) (8) Z0 ≒ sqrt(L/C) (9)を考慮すると、
Cp = tan(β*l)/ω/Z0 = (β*l/ω/Z0)*tan(β*l)/(β*l)
≒ C*l*tan(β*l)/(β*l)
になります。つまり、
Cp/(C*l) ≒ tan(β*l)/(β*l) (10)周波数が高くなるにつれて、キャパシタンスの測定値は眞の値より tan(β*l)/(β*l) 程度大きくなります。
同様に、終端短絡ケーブルの入力インピーダンスは
Zin = Z0*tanh(α*l+j*β*l)ですから、α*l<<1 が成り立つ場合は、
Zin ≒ α*l/(cos(β*l))^2 + j*tan(β*l)になって、直列等価回路のインダクタンス測定が
Zin = Rs + j*ω*Lsであることを考えれば、
Ls/(L*l) ≒ tan(β*l)/(β*l) (11)となって、キャパシタンスとまったく同じ結果になります。
つまり、キャパシタンスやインダクタンスを高周波や長い試料で測定する場合は、 下記のように補正しなければなりません。
眞の L/C の値 = 実測値 * (β*l)/tan(β*l) (12)数値計算 で確認するとわかりますが、(10), (11) 式による補正は極めて有効で、 1 m の試料なら 10 MHz 程度まではほぼ正確な補正ができます。
また tan(β*l)/(β*l) の値は β*l < 0.17 で 1.01 以下ですから、波長の 17 % 以下の長さであれば、1 % 以下の誤差で眞の L, C が直接測定できることがわかり ます。
グリッド・ディップ・メータ等、特殊な測定機を別にすれば、測定機というのは、 基本的に不平衡です。平衡ケーブルを不平衡ケーブルに接続しても、正しいキャパ シタンスの測定は出来ませんから、平衡ケーブルのキャパシタンスを測定する場合 は、平衡・不平衡変換器を使うとか、いろいろな工夫が必要になりますし、変換器 の特性と補正するための計算が必要になります。
ケーブルのキャパシタンスやインダクタンスの値はかなり小さいもので、測定機の 測定限界に近かったり、端末処理のリード線のキャパシタンスやインダクタンスが 無視できないのが普通で、充分な注意が必要です。
測定サンプルを長くすれば絶対値が増えますから、端末部分の誤差は減りますが、 測定周波数によっては分布定数線路としての影響が大きくなって、これまたとんで もない値になる危険があります。測定サンプルの長さが測定する周波数に於ける 電磁波の波長に比べて無視できることを確認し、無視できなければ補正しなければ なりません。
測定ミスを防ぐコツは、原理を正しく理解し次の原則を守りぬくことです。
これは、相互インピーダンス Zm を持つ2つのインピーダンス素子 Z1 と Z2 を 並列接続したときの合成インピーダンス Zp が
Zp = (Z1*Z2 - Zm^2)/(Z1 + Z2 -+ 2*Zm)になることから導くことができます。-+ の符号は相互インピーダンスによる起電力 が自己インピーダンスによる起電力と同方向のとき -、逆方向のとき + になります。
Z1 = R1 + j*ω*L1 Z2 = R2 + j*ω*L2 Zm = j*ω*M = j*ω*k*sqrt(L1*L2)なら
Zp = ((R1*R2-ω^2*L1*L2*(1-k^2)+j*ω*(L1*R2+L2*R1)) /(R1+R2+j*ω*(L1+L2-+2*k*sqrt(L1*L2))ですから、後は分母を有理化すれば Lp と Rp が出ますが、計算は少し面倒です。
kh@mogami-wire.co.jp, 1999-03-17